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犬猫の認知機能不全症候群(痴呆症)について

犬の認知機能不全症候群は『高齢化により一度学習した行動や運動機能の著しい低下により飼育が困難になった場合』と定義されます。もう少しわかりやすい言い方にすると『老化に関連した症状で、認知力と刺激への反応が低下し、昔できていたことができなくなっていく症状』と言えます。今回は皆さんがより聞き覚えのある『認知症』という言葉で説明しようと思います。

 

認知症の犬猫は脳が萎縮していることが知られています。また、人間のアルツハイマー病の原因の一つであるアミロイドの沈着が起こることも知られており、アルツハイマー病と同一とまでは言えないまでも類似した病態である可能性があります。

 

発症は犬であれば9歳以上、猫であれば11歳以上から徐々に認知症を発症するリスクが上がっていきます。特に日本犬での発症が多く知られていますが、ビーグルやマルチーズ、ヨークシャーテリアも好発犬種として知られています。

 

✔️症状は?

認知症の症状として夜泣き徘徊が特に有名かと思いますが、実際の症状は非常に多岐にわたります。

・意識状態の変化(ボーッとしているか、興奮している場合が多い)

・ずっと横になったり、伏せの姿勢をしている

・首を傾げている

・狭いところに入りたがる

・壁に頭を押しつける

・わけもなく鳴き続ける

・うまく歩けない(酔っ払いのような歩き方〜歩こうとしたら転ぶなど)

・うまく立てない

・立っていると両後肢が震える

など様々な症状が認められます。これらの症状は脳の萎縮の程度により変わってきます。脳の萎縮が重度であればあるほど症状は重度になります。

 

※実はこれらの症状は認知症以外の脳疾患(特に脳腫瘍)でも発生します。

そのため、これらの症状が認められた場合、「老齢だから認知症」と決めつけるのではなく、

他の脳の病気がないかどうか確認することが非常に大事です※

 

✔️診断は?

前述の症状や質問表による症状の数値化から認知症の有無を診断しますが、最終的にはMRI検査が必要になります。繰り返しになりますが仮に認知症以外の脳の病気があった場合でも症状と質問表の結果だけ見ると認知症に合致してしまう場合もあるため、最終的にはMRI検査が必要となります。

 

✔️治療は?

残念ながら人間同様に犬猫においても決定的な治療法はありません。そのため可能な限り進行を遅らせること問題となっている症状を抑えてあげることが治療目標になります。そのための方法として下記のようなものが挙げられます。

 

1.怒らないでよく褒める

トイレを失敗したり、異常行動に対して怒ってしまうとより症状が顕著に現れてしまいます。逆にトイレが成功した場合や、飼い主さんの希望する行動をしたらおやつをあげるなどして沢山褒めてあげましょう。

2.生活環境の改善

滑りにくい床や段差をなくすなどの工夫をしてあげてください。ですが、大きく部屋の模様替えを行なったり、いきなりトイレの場所を変えると犬猫が混乱するので注意しましょう。ストレスを感じることなく、静かに過ごせる環境を準備してあげるのも大事です。

3.心身への刺激を与える

少しでもお散歩に連れて行ったり、ペットボトルにおやつを入れて遊ばせるなど可能な限り刺激を与えてあげましょう。

4.食事内容の変更

ビタミンEやDHAやEPAといったオメガ-3-脂肪酸を多く含んだ食事に変えてみるのも良いでしょう。これらが多く含まれるサプリメントや療法食があります。

5.薬物療法

抗うつ薬や行動治療薬などが存在しますが、これらも基本的には対症療法であり、症状を抑えるのが目的となります。特に夜鳴きがひどい場合などはこの薬物療法が効果的になります。

 

どれか1つだけを実践するのではなく、様々な方法を無理のない範囲で組み合わせることで、治療が上手くいく可能性が上がります。

 

犬の肺高血圧症について

肺高血圧症とは肺に血液を送る肺動脈という血管の圧力(血圧)が上昇する病態を言います。肺高血圧症になると肺動脈が変性(リモデリング)を起こし、肺動脈の圧力(血圧)が上昇します。その結果、肺に上手く血液を送れず、全身に酸素をしっかりと運べなくなってしまいます。最悪の場合、死に至る病気です。

 

 

✔️原因は?

様々な原因が挙げられますが、大きく下記の5パターンに分けて考えていきます

 

第1群:肺動脈性肺高血圧症

-特発性、家族性、フィラリア症、先天性短絡性心疾患、薬物、中毒

第2群:左心不全による肺高血圧症

-僧帽弁閉鎖不全症、心筋疾患

・第3群:肺疾患および低酸素血症による肺高血圧症

-慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患など

・第4群:肺血栓塞栓による肺高血圧症

-血栓症

・第5群:原因不明の肺高血圧症

-様々な要因が重なった結果発症すると考えられている

 

中でも第2群による肺高血圧症が多く、肺高血圧症の犬の約50%がこれにあたるとの報告もあります。

僧帽弁閉鎖不全症は特に小型犬で多く認められる進行性の疾患で、病気が重症化すると肺水腫になって呼吸困難になるだけではなく、肺高血圧症に罹患するリスクも高くなります。

 

 

✔️症状は?

一般的な症状として頻呼吸、呼吸困難やチアノーゼが挙げられ、重度なものだと失神を起こす場合もあります。

 

 

✔️診断は?

主に心臓超音波検査で診断します。肺高血圧症があると心臓の右側(右心系)に負担がかかります。そのため、心臓超音波検査で下の図の様な変化がないかどうかを確認します。肺高血圧症があれば血液検査やレントゲン検査などを行い、原因追及をしていきます。

※心臓超音波検査による肺高血圧症の診断基準はいくつかあり、その基準を満たす項目が多ければ多いほど肺高血圧症である可能性が高くなります。

 

 

✔️治療は?

写真にあるような薬による内科治療が基本となります。最初にお話した通り、肺高血圧症は肺動脈の血圧が上昇してしまった状態を言います。そのため、この肺動脈の血圧を下げる薬を使用します。加えて肺高血圧症を起こしている基礎疾患があればこちらの治療も同時に行います。

 

 

 

※筆者は過去にフィラリア感染症により肺高血圧症となった症例を1例経験しています。

予防で防げる病気があります。それも命に関わる病気です。しっかりと予防しましょう。※

猫の伝染性腹膜炎(FIP)について

猫の伝染性腹膜炎(FIP)はコロナウイルス(※新型コロナウイルスCOVID-19とは別です)によって発症する病気で、特に2歳以下の若い猫に多い病気です。また、純血種は混血種よりも発症率が高いとされています。

 

✔︎症状は?

症状は元気食欲の低下、発熱、下痢、心不全、呼吸困難、腹水、胸水、ふらつきや発作などの神経症状など非常に多岐にわたります。特に初期はFIPに特徴的な症状を示さず、元気食欲の低下や発熱など様々な病気で認められる症状のみを示します。病気の進行スピードははやく、早ければ発症から9日間で死亡してしまう場合もあります。

 

 

【写真はFeline Infectious Peritonitis Diagnosis Guidelines,JFMS,2022より引用】

 

 

✔︎診断は

血液検査、画像検査(レントゲン検査と超音波検査)、異常な貯留液(胸水や腹水)があれば貯留液の検査などから判断します。これらの検査からFIPが疑われた場合は、異常な貯留液中、もしくは組織の一部を採取し、そこに病気の遺伝子がないかどうか検査することで診断します。しかし、組織の一部を採取するには全身麻酔が必要になり、FIPの症例に全身麻酔をかけることは危険度の高い行為になります。そのため、異常な貯留液中に病気の遺伝子がないかどうか検査する場合がほとんどです。

 

※遺伝子検査で陽性の場合はFIPと確定出来ますが、陰性の場合は必ずしもFIPを否定できるわけではありません。

 

 

✔︎治療は?

今までは治療法のない不治の病でしたが、近年、モヌルピラビルという治療薬が登場し、不治の病ではなくなりつつあります。この薬は人体薬ですが、猫ちゃんに使用しても安全性が高く、治療効果も高い薬です。

 

 

当院でもFIPの治療薬を導入しました!これで今まで治療出来なかった病気が当院でも治療可能になりました!今までは大学病院に行ってもらっていたため、治療開始までにさらに時間がかかってしまっていましたが、これからは当院で迅速な対応が可能になりました!!

 

 

 

■本当にFIPかどうか

この病気の診断治療を進めていくにあたり、最もネックになるのが『本当にFIPかどうか』です。遺伝子検査を行えばわかりますが、結果が出るまで時間がかかってしまいます。先にも述べた通りFIPは極めて進行スピードの早い病気です。そのため、遺伝子検査結果を待っていると手遅れになってしまう場合があるため、様々な検査を行い、1つでも多くのFIPを疑う証拠を集め、遺伝子検査結果を待つ前に治療を始める必要があります。

犬の免疫介在性多発性関節炎について

犬の免疫介在性特発性関節炎とは免疫機能の異常により、突如として自身の免疫が関節にある滑膜という部位を異物と認識し、攻撃することで発症する病気です。ミニチュアダックスフンドやトイプードル、バーニーズマウンテンドッグなどが好発犬種として知られています。また、秋田犬やチャイニーズシャペーイは遺伝による関節炎の発症も知られています。犬の世界で免疫介在性多発性関節炎といった場合、『特発性免疫介在性多発性関節炎』『リウマチ様関節炎』の2つの疾患が原因のほとんどです。ごく稀に、全身性エリテマトーデスという病気の症状の一つとして関節炎を発症する場合もありますが、今回は代表的なこの2つの疾患についてお話します。

 

 

 

特発性免疫介在性多発性関節炎

 

✔️症状は?

5歳前後での発症が多いとされており、手首と足首の関節での発生が多いです。歩行時の異常や跛行(ビッコ引く)が主な症状ですが、中には跛行症状を示さず、発熱や元気食欲の低下といった症状のみを示す犬もいます。これらがメジャーな症状ですが、頚椎と言われる首の骨にも滑膜が存在するため、ごく稀に首の痛みを示す犬もいます。

 

✔️診断は?

診断には関節液の検査(関節穿刺)が必要です。この検査は大人しい犬であれば無麻酔で実施可能です。

 

✔️治療は?

本疾患の治療はステロイドや免疫抑制剤による内科治療がメインになります。この病気の場合、関節の炎症が起こるだけで、関節にある靭帯が破壊されることは極めて稀なので多くの症例で治療がうまく行けば良好な治療経過が認められます。うまく付き合って行く必要のある病気ですが、中には薬をやめても大丈夫な犬もいます。

 

 

 

リウマチ様関節炎

 

✔️症状は?

中年齢以降での発症が多いとされています。本疾患も手首と足首の関節に発生しやすく、特発性免疫介在性多発性関節炎と同様の症状を示しますが、人間のリウマチ同様、関節の靭帯や軟骨が破壊されるので発見が遅れると手首や足首が「ハの字」になります。

 

✔️診断は?

診断には関節液の検査と血液検査、レントゲン検査が必要になります。いくつかの診断項目があり、診断項目が多く一致するほどリウマチ様関節炎の可能性が高くなります。

※病気の初期段階ではレントゲンでの変化が認められないため、特発性免疫介在性多発性関節炎として治療していたけど徐々に病気が進行し、後からリウマチ様関節炎だったと判明する場合もあります。

 

✔️治療は?

本疾患の治療も同様にステロイドや免疫抑制剤による内科治療になりますが、進行性の疾患であるため、治療目的は"治す"ではなく"進行を遅らせる"になります。

 

犬猫の運動失調について

運動失調とは簡単に言うと「人が酔っ払って千鳥足になって歩いている」のと同じ状態です。そのため、運動失調の犬猫はフラついたり、まっすぐ歩けなかったり、歩く時に足が交差したり、重度だとうまく立てなくなる場合もあります。

 

 

 

 

 

運動失調が出てしまう主な原因は神経系の異常で、原因箇所によって3つに分けて考えます。

 

 

①前庭性運動失調

三半規管などの平衡感覚を司る部位の異常で発生します。このパターンの運動失調では犬猫が『めまい』を感じている可能性が高く、運動失調以外にも眼が上下あるいは左右に揺れる立ち上がれずにゴロゴロと転がる食欲が落ちる吐くなどの症状が認められる場合もあります。原因として加齢性(特発性)がよく認められますが、他にも甲状腺機能低下症、中耳炎や薬物中毒で発生してしまう場合もあります。

 

 

②小脳性運動失調

脳の一部である小脳という部位の異常で発生します。このパターンの運動失調では犬猫が距離感を掴めなかったり、運動時に全身が震えるといった症状が認められます。原因として脳梗塞、脳腫瘍や先天性異常が挙げられます。

Q.犬猫が距離感を掴めなくなるとどうなるの?

物の位置を認識する力が低下します。そのため、何かを口に加えようとした時にその何かがある位置まで口を一回で持っていくことが出来なくなります。

 

 

③固有受容性運動失調

四肢の動きを脳へ伝達する脊髄という部位の異常で発生します。このパターンの運動失調では麻痺症状が認められる場合が多いです。原因として椎間板ヘルニア、背骨の異常や脊髄腫瘍などが挙げられます。

 

Q.運動失調と麻痺の違いって?

運動失調は四肢に力が入るけど上手に歩けない状態を指し、麻痺は四肢に力が入らないため上手く歩けない状態を指します。

 

✔︎診断は?

①〜③のそれぞれで必要な検査が異なるため、症状と身体検査が大事になります。特に症状に関しては病院内で観察できる症状には限りがあるため、日常生活で症状が出た時の動画があるとより正確に判断が可能ですので、お持ちのスマホでの動画撮影をお勧めします。③の場合は高確率でMRI検査が必要になります。

 

 

『歩く』ということは健康寿命維持に大事なことです。歩き方の異常が認められた場合はすぐに病院を受診することをオススメします。

猫の乳腺腫瘍について

猫の乳腺腫瘍は90%が悪性(乳腺腺癌)で、特に10歳前後の猫で発生率が高いとされていますが、これより若い年齢での発生もあります。猫の乳腺腺癌は進行が早く、早急な治療が必要な疾患です。また、高確率で肺転移が起こります。猫の腫瘍疾患としては比較的遭遇することの多い疾患です。

 

ちなみに.....猫の乳腺は左右に4つずつあります

 

猫の乳腺腫瘍の形成と性ホルモンは関係があると言われており、1歳以上で避妊手術をした猫と1歳未満に避妊手術をした猫を比較すると、1歳未満に避妊手術をした場合は乳腺腫瘍の発生率を90%近く下げることが出来ます。実際、猫の乳腺腫瘍の大部分は未避妊だったという報告もあります。

 

✔︎症状について

肺転移を起こすと呼吸困難などの症状が認められますが、通常は無症状で、腹部にシコリが見つかるだけの場合がほとんどです。

 

✔︎診断について

乳腺腺癌の確定診断には手術が必要ですが、細胞診(針を刺す検査)を実施することで乳腺に発生するその他の腫瘍と区別できる場合があります。

 

✔︎治療について

外科手術による摘出が第一選択の治療になります。猫の乳腺腺癌は悪性度が高く、転移や再発を防ぐため、腫瘍を含めた広範囲の摘出が推奨されており、摘出方法は大きく分けて下の図のように3パターンがあります

 

片側乳腺全摘出術(図1)は腫瘍のできた側の乳腺を全て摘出する手術方法です。この手術による治療を実施した場合、平均の生存期間は約300日とされています。一方で段階的片側乳腺全摘出術(図2)と両側乳腺全摘出術(図3)は腫瘍が出来ていない側の乳腺も全て摘出する手術です。前者は2回に分けて乳腺を摘出する方法で、後者は1回で両方の乳腺を摘出するという違いがあります。この2つの場合の、いずれの手術方法でも平均の生存期間は約540日と同じ日数が期待できます。そのため、麻酔は2回必要になりますが、当院では術後の合併症の点から段階的片側乳腺全摘出術を推奨しています。また、術後に抗癌剤治療を実施することでさらなる生存期間の延長が期待できます。また、抗癌剤以外にも免疫療法による術後の補助療法も可能です。

 

 

※猫の乳腺腺癌は腫瘍のサイズが大きければ大きいほど、数が多ければ多いほど積極的に治療しても生存期間が短くなってしまいます。腹部に異常なシコリを発見した場合はすぐに病院を受診しましょう※

犬猫の熱中症について

熱中症は高温多湿の環境にいることで高体温と脱水が生じて発生する命に関わる疾患です。

条件が整えば数十分で熱中症になってしまう場合もあります。熱中症というと夏の病気のイメージが強いかもしれません。実際、夏の発生が圧倒的に多いですが、実はシーズンに関係なく、シャンプー後のドライヤーなどによっても発生する場合があります。

 

※特に肥満の犬猫、短頭種の犬猫や呼吸器疾患を持つ犬猫は注意が必要です※

 

Q.症状は?

熱中症になると初期は頻脈やパンティングですが、体温が高く、脱水状態が継続すると多臓器不全に陥り、嘔吐下痢、意識レベルの低下や発作なども認められるようになります。最悪の場合、死に至ります(おおよそ50%の確率)。

 

Q.診断は?

熱中症を起こしうる環境にいたかどうか、犬猫の状態と直腸温度が40度以上であれば熱中症と診断します。

 

Q.治療は?

冷却処置とダメージを受けた臓器の治療が主な治療になります。受けたダメージは症例ごとに異なるので、様々な治療が必要になります。

 

Q.予防は?

✔️直射日光を避け、風通しのよい部屋で過ごしてもらうこと。

✔️水分(冷水/氷を舐めさせる)を取らせること。

✔️日中の散歩は避け、日の出前や日没後に散歩にいくこと。

が主な予防法として挙げられます。サマーカットをするのも良いかもしれません。特に日向ぼっこを好む犬猫は注意が必要です。日向ぼっこで寝ていると思ったら熱中症になっていて動けなくなっていたというケースもあります。また、犬は散歩の際、日中にコンクリートが浴びた熱の反射を人間よりも近距離で全身に受けることになります。そのため、人間の体感温度よりも熱くなってしまことがあるため注意が必要です。

 

Q.もし熱中症になっているのを発見したら?

風通しのよい部屋に移動させ、タオルで包んだ保冷剤を脇と股に当ててください。その上ですぐ動物病院に連絡し、病院へ向かってください。

 

 

※直接保冷剤を当てたり、氷水の中に入れる、アルコールスプレーをかけるなどの行為は危険ですので絶対にしないでください※

犬の跛行(ビッコをひく)について

跛行(ビッコをひく)とは四肢のうちいずれかの肢に異常が生じ、それをかばうように歩く症状を言います。簡単に言うと「肢を挙げたまま歩いたり、肢をつくのを嫌がって歩く」症状を言います。跛行の症状の程度は様々で、パッと見ただけでは分からない程度の跛行もあれば、完全に肢を挙げて歩く一目瞭然の跛行もあります。また、通常、跛行は走った時の方が症状が顕著になりやすく、普段のスピードで歩いている時は跛行が認められなくても、走った時にだけ跛行が認められる場合もあるので注意してください。

 

最初は関節や靭帯をケガした痛みから跛行を示しますが、その痛みが落ち着くと一時的に跛行が改善する場合もあります。しかし、そのまま放置した状態が続くと変形性関節症(関節がゴツゴツに変形してしまう)を起こし、ひいては関節炎による痛みが出始めます。そのため慢性化してしまう前に対処することが重要です。

《犬の跛行の7割は後ろ肢と言われています》

 

 

主に跛行の原因は『痛み』ですが、生まれつき、もしくは成長過程における骨の異常で生じる物理的要因もあります。

主な痛みの原因として、関節の異常(前十字靭帯靭帯断裂や股関節形成不全、関節腫瘍など)、骨の異常(骨折や骨の腫瘍など)、筋肉や腱の異常(アキレス腱断裂や靱帯炎など)、神経の異常(神経炎や神経の腫瘍など)、肉球の異常(異物や裂傷など)が挙げられ、主な物理的要因としては骨の成長異常(成長板早期閉鎖など)や膝蓋骨(パテラ)脱臼が挙げられます。

 

跛行の原因は主に、跛行する状況、歩き方、犬種、年齢、レントゲン画像から総合的に診断します。

神経の異常の場合、診断には全身麻酔(MRI検査)が必要になります。

 

※神経の異常の場合に認められる主な歩行異常は酔っ払いみたいに歩く「ふらつき」や力が入らない「麻痺」ですが、神経の痛みにより跛行が認められる場合が稀にあります。

 

特に跛行する状況と歩き方が大事な情報になります。病院内では歩き方を観察できる環境が限られるため、普段どういった時に跛行をするのか注意深く観察してもらうこと、どういう歩き方をするのか動画を撮ってもらうことが診断の大きな一助になります。

 

例)

✔️休息後に跛行が目立つ→関節の異常を疑う

✔️昇りたがらない→後肢の異常を疑う

✔️降りたがらない→前肢の異常を疑う

✔️デコボコ道で症状が悪化する→肉球の異常を疑う

 

 

跛行は多くの場合、外科治療が必要になります。ですが跛行の原因、年齢、大型犬か小型犬かなどにより内科治療か外科治療か選択可能な場合があります。

 

※骨や関節の異常の場合、症状が軽度だからといって様子を見てしまうと、治療が手遅れになってしまう場合があります。犬では捻挫や打撲は稀な疾患です。跛行症状が認められた際には早めに病院を受診することをお勧めします※

大型犬の肘異形成について

✔️肘異形成(肘関節の不一致)とは

大型犬(特にレトリーバー種やバーニーズマウンテンドッグなど)の成長期に認められる肘関節の病気です。

肘の関節面が成長とともに不整になることで症状が現れます。主な症状は前足の跛行(ビッコひく)で、この場合、ワンちゃんが歩くと頭が上下に動きます(ヘッドボブ)。しかし、この成長期(4〜7ヶ月齢位)に認められる症状は初期症状で、中にはこの病気があっても初期症状を示さないワンちゃんもいます。この時期を過ぎると一旦症状は落ち着いてしまいます。しかし、関節面の不整はあるので、肘関節に必要以上に負担がかかってしまい、早ければ3歳位から肘の関節炎による痛みで跛行が出始めます。

!!この病気は早期発見早期治療が必要な整形疾患です!!

 

~症状のイメージ~

成長とともに肘の関節面が不整になるので動かすと痛みが出てしまい跛行する(初期)

徐々に肘が痛くならない歩き方を自分で見つけるので跛行が落ち着く

肘の関節面が不整な状態は変わらないので異常な負担が肘関節にかかり必要以上に関節炎が進行(中期)

関節軟骨が減少、さらに関節炎が進行し痛みの原因となる(末期)

 

✔️診断は?

主にX線検査と身体検査で診断します。4ヶ月齢以上になれば診断可能です。

✔️治療は?

手術が必要になります。行われる手術はタイミング(年齢)によりいくつかありますが、主に骨切り術を行います。

※手術について※

残念ながら現在の獣医療では肘関節の病気に対する確実な治療法は確立されていません。現状もっとも確実とされているのが4ヶ月〜7ヶ月齢の頃(初期)に尺骨を切ることで関節にかかる負担を軽減させる手術です。そのため当院ではこの時期に検査をし、必要であればこの時期に手術を行うことを推奨しています。

 

 

 

●実際の症例のX線写真をご覧ください●

 

 

 

 

 

 

犬猫の肺水腫について

肺水腫とはなんらかの原因で肺に水が溜まり、呼吸困難になってしまった状態(人で言うと溺れた状態)を言います。原因は大きく『心臓病』『心臓病以外』に分けられ、犬猫の場合『心臓病』が原因である場合がほとんどです。心臓病以外の肺水腫の原因として感電や中毒、敗血症などが挙げられます。

 

心臓病の中でも肺水腫の原因として犬の場合は僧帽弁閉鎖不全症が、猫の場合は肥大型心筋症が多く認められます。

 

◉僧帽弁閉鎖不全症について◉

小型犬とキャバリアキングチャールズスパニエルが好発犬種として知られています。加齢により心臓の中にある逆流防止弁である僧帽弁という弁が変性してしまいます(いわゆる弁膜症)。その結果、逆流防止弁としての機能が果たせず、血液の逆流が生じてしまい、最終的に肺水腫になってしまいます。

 

 

◉肥大型心筋症について◉

色々な品種に認められますが、特にメインクーンやペルシャ、ラグドールは遺伝による発症があると言われています。肥大型心筋症は文字通り心臓の筋肉が分厚くなる病気で、筋肉が分厚くなった結果、心臓に血液が流れ込むスペースがなくなり、肺水腫になってしまいます。しかし、猫の場合、犬とは血管の走行が一部違うため、肺水腫にならず胸水貯留(胸に水が溜まり、肺が広がらなくなって苦しくなる)を起こす場合もあります。また、この病気の場合、血栓が出来てしまう場合があるので注意が必要です。

 

※犬も猫も心臓病は急激に悪化します

ついさっきまで元気だったのに数分後には呼吸困難になるという場合もあります※

 

✔︎肺水腫になったらどんな症状が出るの?

口を開けたまま呼吸している、肩で息をする様子、立ったままか座ったままの姿勢で伏せの姿勢になれないなどが認められます。症状は犬でより顕著ですが猫ではわかりにくい場合があります。そのため普段活発に動くのに全く動かないなどの症状が認められた場合には注意が必要です。症状の発見が遅れると呼吸困難で心肺停止になってしまいます。

 

✔︎診断は?

主にレントゲン検査で診断します。ただし呼吸状態が極めて悪い場合などはレントゲン検査を行わず、治療を優先したり、超音波検査で判断する場合もあります。

 

✔︎治療は?

酸素濃度の濃い部屋で入院が必要になります。また利尿剤や強心剤などの投与や、すでにこれらの薬を使用している場合はこれらの薬の増量も必要になります。

治療開始が遅くなると肺水腫で入院した場合の生存退院率は70~80%と言われています。

※退院したら治療終了ではありません。再発のリスクもあるため、退院後も治療薬の継続と定期的な検査は必要です※

 

✔︎予防方法は?

有効な予防方法はありませんが、一度心雑音を指摘された犬猫は定期的な心臓検査が非常に重要になります。ただし、猫の場合心雑音が聴取されない場合もあるので、特に好発品種の猫ちゃんは一度心臓の超音波検査を受けることをお勧めします。また、猫の場合、血液検査(NT-proBNP)で2〜3匹に1匹の割合で心臓病の有無を確認することが可能です(※心臓病の有無がわかるだけで、肥大型心筋症かどうかまではわかりません。そのため異常値が出た場合は最終的に心臓超音波検査が必要になります)

先にも述べた通り心臓病は急激に悪化するため、元気でも数分後にはグッタリしてしまう場合もあります。そうならないよう定期的に心臓超音波検査を行い、肺水腫になる前に心臓病の進行を発見し、進行を遅らせるための適切な治療をしてあげる必要があります。