犬の認知機能不全症候群は『高齢化により一度学習した行動や運動機能の著しい低下により飼育が困難になった場合』と定義されます。もう少しわかりやすい言い方にすると『老化に関連した症状で、認知力と刺激への反応が低下し、昔できていたことができなくなっていく症状』と言えます。今回は皆さんがより聞き覚えのある『認知症』という言葉で説明しようと思います。
認知症の犬猫は脳が萎縮していることが知られています。また、人間のアルツハイマー病の原因の一つであるアミロイドの沈着が起こることも知られており、アルツハイマー病と同一とまでは言えないまでも類似した病態である可能性があります。
発症は犬であれば9歳以上、猫であれば11歳以上から徐々に認知症を発症するリスクが上がっていきます。特に日本犬での発症が多く知られていますが、ビーグルやマルチーズ、ヨークシャーテリアも好発犬種として知られています。
✔️症状は?
認知症の症状として夜泣きと徘徊が特に有名かと思いますが、実際の症状は非常に多岐にわたります。
・意識状態の変化(ボーッとしているか、興奮している場合が多い)
・ずっと横になったり、伏せの姿勢をしている
・首を傾げている
・狭いところに入りたがる
・壁に頭を押しつける
・わけもなく鳴き続ける
・うまく歩けない(酔っ払いのような歩き方〜歩こうとしたら転ぶなど)
・うまく立てない
・立っていると両後肢が震える
など様々な症状が認められます。これらの症状は脳の萎縮の程度により変わってきます。脳の萎縮が重度であればあるほど症状は重度になります。
※実はこれらの症状は認知症以外の脳疾患(特に脳腫瘍)でも発生します。
そのため、これらの症状が認められた場合、「老齢だから認知症」と決めつけるのではなく、
他の脳の病気がないかどうか確認することが非常に大事です※
✔️診断は?
前述の症状や質問表による症状の数値化から認知症の有無を診断しますが、最終的にはMRI検査が必要になります。繰り返しになりますが仮に認知症以外の脳の病気があった場合でも症状と質問表の結果だけ見ると認知症に合致してしまう場合もあるため、最終的にはMRI検査が必要となります。
✔️治療は?
残念ながら人間同様に犬猫においても決定的な治療法はありません。そのため可能な限り進行を遅らせることと問題となっている症状を抑えてあげることが治療目標になります。そのための方法として下記のようなものが挙げられます。
1.怒らないでよく褒める
トイレを失敗したり、異常行動に対して怒ってしまうとより症状が顕著に現れてしまいます。逆にトイレが成功した場合や、飼い主さんの希望する行動をしたらおやつをあげるなどして沢山褒めてあげましょう。
2.生活環境の改善
滑りにくい床や段差をなくすなどの工夫をしてあげてください。ですが、大きく部屋の模様替えを行なったり、いきなりトイレの場所を変えると犬猫が混乱するので注意しましょう。ストレスを感じることなく、静かに過ごせる環境を準備してあげるのも大事です。
3.心身への刺激を与える
少しでもお散歩に連れて行ったり、ペットボトルにおやつを入れて遊ばせるなど可能な限り刺激を与えてあげましょう。
4.食事内容の変更
ビタミンEやDHAやEPAといったオメガ-3-脂肪酸を多く含んだ食事に変えてみるのも良いでしょう。これらが多く含まれるサプリメントや療法食があります。
5.薬物療法
抗うつ薬や行動治療薬などが存在しますが、これらも基本的には対症療法であり、症状を抑えるのが目的となります。特に夜鳴きがひどい場合などはこの薬物療法が効果的になります。
どれか1つだけを実践するのではなく、様々な方法を無理のない範囲で組み合わせることで、治療が上手くいく可能性が上がります。