一般的に鼻水、クシャミは鼻腔の病変、よだれは口腔内の病変と別々のものと思いがちですが、実は口腔内の炎症から鼻腔へと炎症が進み鼻水、クシャミがでることが犬猫の場合にしばしば認められます。獣医学の進歩、ペットフードの改善、飼い主さんの知識向上により、ペットの高齢化が進んできている中、健康上、特に大きな問題になっているのが歯牙疾患です。
人医の方でも「歯が命」といわれているほどです。さて、動物の場合は、実際に歯石がどの程度付着しているかということが最も重要な要素です。歯石付着により口腔内の衛生は極めて悪化し、口臭、よだれがひどくなってきます。そのペットに人が口や鼻を舐められることにより、感染がおこることさえありますので注意しなくてはなりません。
歯石をなるべく付着させないことが何より大切なことですが、人間と同じようにご自分の犬猫の歯を磨ける人は非常に少ないと思います。そのため、人より歯石がはるかに付着しやすい状況があります。
歯石は徐々に付着し、高齢になるにしたがって悪化してきます。また、人の歯石除去は無麻酔でできますが、動物の場合には全身麻酔が必要となります。歯磨きの問題、麻酔の問題、この2つの点が動物において口腔内の病気予防に大きなハードルになっています。歯石は口腔内の細菌増殖の温床になり、歯周病が始まります。歯周病が進むと歯槽骨が後退し、歯槽膿漏となります。さらに悪化が進むとあごの骨も解けていくことになり下顎骨においては骨折が生じることもあります。また、上顎骨においては頬の部分(眼の下)にまで口腔内の細菌が浸潤し膿が溜まり自潰すること(歯根膜膿瘍)もあります。
炎症が鼻腔内にまで広がるとくしゃみや鼻汁、鼻出血などの鼻炎症状が始まります。さらに歯肉が後退し、骨が解けていくと上顎犬歯が抜け落ちて口と鼻が瘻管でつながってしまい(口鼻瘻)、水やフードを食べたとき、口から鼻に食べものがぬけ鼻腔からでてくることもあります。また、タイミングが悪ければフードが鼻腔から逆に気管に入り肺炎を引き起こすこともありますので注意が必要です。
さらに、歯周病を放置すると心臓弁膜症や腎臓病など全身のさまざまな病気の原因にもなります。まずは悪化させないように毎日のケアから始めることが大切であると考えます。付着した歯石は全身麻酔が可能な限り定期的に除去することが大切ですが、年齢や病気などの問題もあり、除去できなくなってしまう場合もあります。
最近は歯石や歯周病予防に様々な医薬品や予防グッズも増え、その時の状況でいろいろと対処ができるようになってきています。口臭が気になったら、早めに受診してみてはいかがでしょう。