前十字靭帯は膝にある靭帯で、膝の安定した動きを維持するためにとても重要な靭帯です。
コラーゲンを主成分とする靭帯で、この靭帯を損傷してしまうことを前十字靭帯損傷と言います。人間ではサッカー選手やラグビー選手などのスポーツ選手の膝の外傷で多く認められますが、犬の場合、外傷で前十字靭帯損傷を起こすことは非常にまれで、通常は加齢により靭帯が脆弱化することで損傷してしまいます。この変性は早ければ大型犬で3歳から、小型犬で5歳から始まると言われています。
加齢により脆弱した靭帯が遊んでいる時や、ダッシュする瞬間などに膝に掛かる力に耐えられず、損傷してしまうため、外傷が原因と思われがちですが、根本的な原因ではありません。
ただし、犬でも外傷が原因で前十字靭帯を損傷することもあり、交通事故やアジリティの競技中に発生し、この場合は強烈な痛みを伴います。
✔️症状は?
後ろ足の跛行(いわゆるビッコ)です。靭帯が損傷することで膝関節の安定性が失われてしまうため、膝関節に異常な動きが発生してしまいます。それにより痛みが生じ、跛行をしてしまいます。跛行の程度は様々で、完全に足を挙げる場合もあれば、足はつけるけど歩き方が変という程度の場合もあります。
✔️診断は?
身体検査とX線検査に加えて前十字靭帯損傷と同様の症状を示す疾患を除外することで診断します。
※診断を確定させるには全身麻酔をかけて実際に肉眼で前十字靭帯の損傷を確認する必要があります。
✔️治療は?
保存療法(痛み止めや体重管理、運動制限)と外科療法があります。しかし、前十字靭帯損傷は基本的に外科療法が必要な病気です。ですが超小型犬種(2kg未満)の場合、保存療法で症状の改善が期待できます(治るわけではありません)。手術方法は人工靭帯を使用する手術(関節外法)と骨を切ることで膝を安定化させる手術(骨切り術)があり、当院では関節外法を実施しています。
※関節外法の実施にはいくつか適応条件があります。
✔️手術しないとどうなるの?
関節炎が進行し、うまく歩けなくなってしまいます。また、半月板(膝関節にあるクッションの役割をもつ)も損傷してしまい、靭帯を損傷した痛みが落ち着いても、骨関節炎(変形性関節症)による痛みや半月板損傷による痛みと付き合っていかなければなくなります。この病気は特に関節炎の進行スピードが早いため、早急な治療が必要になります。治療が遅れると手術をしても骨関節炎による痛みが残り、術後の膝の機能回復が不完全になってしまう可能性があります。